インプラントとは
インプラント治療とは、歯の失われた部分のあごの骨の中に人工歯根(スクリュー型の純チタンなどを使用)を埋め込み、それを支えとして歯を作る治療法です。最近では、多くの歯科医・歯科クリニックが診療室とは別に手術室を完備しており、熟練した技術をもって対応しています。(リトリート編集部 大畑亮介)
歯を失ってしまった場合、多くの方は以下のようなお悩みを抱えています。
- 噛みにくいため食事に制限がある
- 発音がおかしい、はっきり話せない
- 歯や口元が気になり集中できない
- 頭痛・筋肉痛に悩ませられている
などなど、外見や健康面さらには精神面にも生じる影響は様々なようです。また、お口の中では歯が抜けたことで周りの骨が徐々に痩せ、健康な歯までもが動いてきて、やがてしっかり噛めなくなるということや、入れ歯が歯茎にぶつかる刺激に反応して、ますますやせ細り、作った入れ歯が合わなくなる等の恐れがあります。
インプラント治療のメリットは、歯茎が痩せてしまうことなく、また回復してくることさえあるということ。入れ歯と違い、固定性でガタつきが無いため、しっかり噛むことができます。
食事や会話が楽しめるようになり、噛む機能だけではなく見た目の審美性にも優れています。
埋入後もケア・定期検査を行えば、半永久的にご利用いただけます。
インプラントの素材
インプラントの歴史は古く、紀元前から始まっていたと言われ、貝殻、サファイア、鉄、ステンレス、アルミニウムなど多様な素材が使われ、どれも良好な結果が得られずに淘汰されていきました。
しかし、1965年にスウェーデンの学者で応用生体工学研究所所長のペル・イングヴァール・ブローネマルク教授が開発したチタン製のインプラントが、おどろくべき成果をあげました。
最初に治療を受けた患者さんは、亡くなるまでの40年以上最期までインプラントは完璧に機能し、後遺症も無かったと報告されています。これはチタンが骨と結合するという特質をもっていたからです。
チタンは生体親和性が非常に高く、人体へ入れる人工関節、人工心臓、ボルトなどの素材としても広く使用されており、純チタンでアレルギーを起こす事は、ほとんどありません。(多くの歯医者さんがスクリュー型の純チタンを使用しています)
インプラント治療の成功率
インプラント治療は、従来の入れ歯治療やブリッジと比べ、様々な利点がある事で注目されており、インプラントの症例数や埋入本数は年々増えています。
インプラントの成功率はおよそ98%(失った歯の部位などによっても異なります)と非常に高い確立で成功しています。多くの歯科医では、診療室とは別に手術室を完備し、徹底した衛生管理のもと、熟練した技術をもって対応させていただいており、患者様に安心して治療を受けていただけるよう心がけています。
シニアもインプラントをすれば噛める!?
2013年1月
人工歯根(インプラント)
中高年が歯を失ったときに、治療法として増えているのが人工歯根(インプラント)を埋め込む手術だ。入れ歯に比べ、違和感なくかむことができ、ブリッジのように残っている歯を削らずにすむので人気がある。どのような治療なのか。2人の隊員が探った。
大阪歯科大付属病院へ取材
探検隊員になったのは、大阪府八尾市のTさん(73)と大阪府吹田市のMさん(70)。Tさんは歯が8本欠けており、ブリッジにしている。Mさんはすべての歯がそろっているが、健康な兄(75)の歯が1本急に抜け、不安になった。
2人は大阪歯科大付属病院(大阪市中央区)を訪ね、口腔(こうくう)インプラント科専任教授(50)から話を聞いた。口腔インプラント科は年間約400例の手術を手がける。
日帰り手術
治療は、歯茎を切開し、顎の骨(歯槽骨)に金属のチタン製のねじを埋め込む。骨と結合するのを待ち、その上にセラミック製などの人工歯を取り付ける。取り外しできる入れ歯タイプもある。歯科医は歯の模型などを使って手順を説明した。「埋め込むねじは直径3~6ミリ・メートル、長さ6~15ミリ・メートルの小さなものです。日帰り手術で、痛みは親知らずを抜歯する場合と同じ」
治療の疑問点
Tさんが「ねじが外れたりしないのですか」と疑問点を指摘すると、歯科医は「骨が丈夫なうえ、埋め込んでから下顎で2~3か月、上顎で4~6か月たってしっかり結合したら大丈夫。人工歯をかぶせるまでは、仮の歯をつけます」と答えた。
すかさずMさんが質問。「入れ歯になって歯槽骨がやせている人はどうすれば」。歯科医は「骨を増やす治療を事前に行います」と解決法を示した。
アフターケアが大切
アフターケアが大切だ。普通の歯に比べ、人工歯の方が上部が大きくなるので土台との接合部分に食べかすが詰まりやすい。「きちんと磨かないと歯茎がやせて、インプラントが骨から抜け落ちるインプラント周囲炎になります。歯石除去もこまめにし、長持ちさせてください。私の患者さんは20年もっています。歯ぎしりがひどいと折れるケースもあります」
90歳代でも
Tさんが「何歳まで手術を受けられるのですか」と問うと、「90歳代の方でも健康であればOKです。うちでは50歳代以上で8割を占めます。糖尿病がひどかったり、骨粗しょう症の薬を服用しているケースなど無理な場合があります」と話した。
保険外診療のため費用が高額
ただ、保険外診療なので、費用が高くつくのが難点だ。大阪歯科大付属病院では、検査、手術と人工歯装着で1本当たり35万円から40万円かかる。「格安を宣伝している歯科医もありますが、内容をよく調べ、値段よりも安心を買ってください」
一生面倒をみてくれる人を選ぶこと
2人が「どこで手術を受けたらいいのか、迷います」と嘆くと、歯科医は「治療の流れをきちんと説明し、マイナス面も話してくれることが重要です。一生面倒をみてくれる人を選びましょう」とアドバイスした。
様々な事前検査
TさんはCT(コンピューター断層撮影)検査を受け、撮影した歯槽骨の画像を使い、どの長さのインプラントが安全に挿入できるか想定してもらった。2人はメンテナンスで重要となるかみ合わせの検査もした。
インプランについて調査しての感想
Tさんは「おいしく食べたい。アフターケアをきちんとしてくれるところを選びます」と述べ、Mさんは「慎重に取り組んでもらったら安心です。兄に勧めたい」と話していた。
「第2の永久歯」
インプラントは「第2の永久歯」とも言われている。しっかりかめるので、脳を刺激し、老化を防ぐ効果があるという。スウェーデンで1965年から、チタンを使ったインプラント治療が始まった。日本には約30年前に本格導入され、約6万8000ある歯科診療所のうち、2割近くが手がけているとみられる。
安心できる治療
安心できる治療を受ける手がかりとしては、NPO法人・歯科医療情報推進機構が、歯科医の技量と安全体制を評価して交付している「インプラントセーフティーマーク」がある。2012年12月現在で61施設が取得している。
医療費控除の対象
高額なインプラント治療は「医療費控除」の対象となる。1年間に10万円以上の医療費を払った場合、納めた税金の一部が返ってくる制度で、領収書などを添付して、税務署に確定申告をする。
歯科インプラント手術 安全な治療へ
2012年8月
インプラント手術後の障害
インプラント(人工歯根)手術が元で顔の神経まひなどの障害が生じ、後に大学病院などで治療が行われた例が、2009~11年の3年間に421件あったことが日本顎(がく)顔面インプラント学会の調査でわかった。歯科関係学会や団体は、事故防止策を進める責任がある。
歯を失った場合の治療法の1つ
インプラントは、歯を失った場合の治療法の1つ。手術は、歯がなくなった部分の歯肉を切開し、あごの骨(歯槽骨)にドリルで穴を開けてチタン製の人工歯根を埋め込み、人工の歯を取り付ける。
自費診療
保険が利かない自費診療だが、入れ歯に比べ違和感なくかむことができ、ブリッジのように周りの歯を削らないですむ長所がある。年間の出荷本数は約60万本。歯科診療所の約2割でインプラント治療を行っている。
負担の大きい外科手術
歯科診療の中では、比較的大きな負担を患者の体にかける外科手術だ。
過去には死亡事故も
2007年には東京都内の歯科医院で、出血多量による死亡事故が起きている。しかし、インプラント治療のほとんどが中小の歯科医院で行われているため、全体のトラブル件数や実態は把握できていなかった。
日本顎顔面インプラント学会による調査
日本顎顔面インプラント学会が集計した421件のトラブルのうち、手術の際に神経を傷つけたケースが158件(37.5%)と最も多かった。インプラントが上あごの骨を突き抜けて副鼻腔(びくう)に入ってしまった例も63件(15%)あった。神経が傷ついたケースの半数以上は、治療でも良くならず、まひが残った。
日本大学松戸歯学部の教授の見解
トラブルは「ここ10年ほどで急に目立ってきた」と、日本大学松戸歯学部の教授(口腔インプラント学)は話す。
インプラント治療参入と経験不足の問題
材料や器具の改良が進んだことが、歯科医院がインプラント治療に参入する壁を低くし、かえってトラブル増につながったという。「20~30年前は、歯科医自身がうまくできそうな歯を選び、慎重に実施していた。近年は経験が乏しい歯科医が見通しがつかないままに手術を行った結果うまくいかず、患者が大学病院に回ってくる」(加藤准教授)。
歯科医院の経営
また、歯科医院は競争の激化で保険診療だけでは経営が厳しいことから、収入確保のため1本30万円程度と高額なインプラント治療が無理に実施されているとの指摘もある。
インプラント治療の適正化
適正化に向け、関係団体は対策に動き出した。
日本歯科医学会
日本歯科医学会は国の委託を受け、安全にインプラント治療を行うための歯科医向けの指針を作成し、早ければ2012年度中に周知を図りたい考えだ。厚生労働省は、歯科医師国家試験に、インプラントと医療安全の項目の出題の割合を増やすことも検討している。
日本口腔インプラント学会
また、日本口腔インプラント学会は、日本口腔インプラント学会の専門医約800人だけが、インプラント専門医として広告表示できるよう、国に求めている。日本口腔インプラント学会の渡辺文彦理事長(日本歯科大学新潟生命歯学部教授)は「ネットやチラシの一部に不適切な広告が見られ、患者を惑わしている。学会の専門医表示が認められれば、専門医取得の意欲が高まり、治療水準の向上につながるはずだ」と話す。
インプラントセーフティーマーク
歯科医院の治療体制全体を評価しようとの試みもある。NPO法人・歯科医療情報推進機構(藤本孝雄理事長)は、専門家で作る審査委員会が歯科医の技量と安全確保の体制を評価し、基準を満たした施設への「インプラントセーフティーマーク」を交付している。2012年2月末までに45施設が取得した。
患者も最低限の知識を備える
患者自身も最低限の知識を備える必要がある。手術に伴う危険や治療後の継続した手入れについての説明、治療の成否に関わる全身の健康状態や歯周病の検査を治療前に実施しているかも、重要なポイントだ。